大阪高等裁判所 昭和53年(く)31号 決定 1978年4月18日
少年 M・M子(昭三六・三・一一生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は少年作成の抗告申立書記載のとおりであり、これを要するに、少年を中等少年院に送致した原決定は、少年が試験観察中に再犯に及んだものであるとはいえ、保護処分を受けるのは初めてでもあり、とりわけ共犯者A子に対する処遇と比較して著しく不当であるからその取消を求めるというにある。
よつて検討するに、本件記録によれば、原決定摘示のとおりの非行事実並びに要保護性に関する事実が認められるところ、(原決定摘示の非行事実中第三の事実の非行年月日は昭和五一年一二月三〇日の、第五のそれは昭和五二年一〇月九日の誤記と認める)、右非行事実のうち原決定摘示の第一、第二、第五の各事実はいずれも少年が主導的に行なつたものであり、第二、第五の事実は少年の即行性、自己抑制力欠如の顕著な発現、第一、第四、第六の各事実は誤つた自己顕示欲のあらわれともみられ、これらは個々の非行を個別に見ればさして重大なものとはいえないにしても、予後を考えるうえにおいては決して軽視し難いものを含んでおり、第五ないし第七の非行が、第一ないし第五の非行によつて昭和五二年二月一二日試験観察決定を受けた後、現にその試験観察中に犯されたものであることも看過できないところである。また記録によれば、少年は右試験観察決定後も従前の生活態度を改め、自力で更生しようとする意欲を示さず、右決定時の誓約を遵守せず、その後の家庭裁判所調査官の指導にも充分従わないで不良交友を続け、さしたる理由もなく転職を繰り返し、その為生活も不安定で、最近では家庭からの離脱傾向を強めつつあることがうかがわれ、加えて少年の初発非行は一五歳時と比較的早く、それ以前からも無断外泊等の問題行動があり、以来前記試験観察決定直後の数か月間を除き、ほぼ継続して非行、問題行動を繰り返してきていることをも考えれば、少年の非行性は相当根深く、かつ進行しているものと認めざるを得ない。一方少年の保護者には少年に対する充分な監督指導能力を認め難く、今後より強力かつ適切な監督指導を期待することは困難であると認められる。以上の諸事情を考えあわせれば、少年の健全な育成を期し、その改善矯正を図るためには、相当長期間施設に収容して規律ある生活のもとで専門的指導教育を受けさせる以外に方法はないものと認められ、少年を中等少年院に送致した原決定は相当である。
なお申立人は、共犯者A子に対する処遇との権衡を言い、記録によれば、原裁判所は原決定と同日に、右A子を中等少年院(一般短期処遇)に送致する旨決定した事実が認められるが、右A子の非行は、少年と共犯の原決定摘示第七の事実のほか、昭和五三年二月二八日男子少年と共謀して自動車一台を窃取した事案があるのみで、いずれも同人が主導的に行なつた非行ではあるがこれ以外に非行歴は認められず、この点においてすでに両者の処遇を単純に対比することができないのみならず、少年保護事件における処遇の決定は、共犯者といえども常に同等の処分をすべきものではなく、非行内容と少年の性格、資質、環境、非行歴等を総合した要保護性の程度に応じて個別的になされるべきであり、記録にあらわれた右A子の要保護性と前記少年の要保護性を対比すれば、原裁判所がA子に対する少年院送致決定に際しては「一般短期処遇」相当の意見を付したのに対し、少年に対する決定にそのような短期処遇相当の意見を付さなかつたのは、それぞれの要保護性の程度に応じた適正な措置というべきである。
以上いずれの点からみても原決定の処分に著しい不当があるとは認められず、記録を精査しても原決定に法令違反、重大な事実誤認は認められない。
よつて本件抗告は理由がないので、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 瀧川春雄 裁判官 吉川寛吾 西田元彦)
参考二 抗告申立書
抗告理由
私は今度の事件の審判について、A子さんは短期処遇でA子さんと同じように送られて来たのに私だけ長期処遇と言うのはどうしても不満です。
自分も罪を起こしてしまつたけれどその時々の情況を考えると他の二人よりは軽いと思つていました。私は試験観察がついていたからと言つても一回目の処分だから二回目の処分とはあまり関係はないと思つていました。
とにかく今度の処分で少年院送致になつたのはあたりまえだと思いますが、私の方だけ長期になつたのがどうしてもおかしいと思います。
自分の悪い事はよく反省していますから、もう一度考えなおしてほしいと強く思います。
私は鑑別所二回目と言うので長期になつたのならば、このままではどうしても不満に思えて仕方ありませんから、もう一度考えて下さい。